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戦争は日常の延長にある。[書評]となり町戦争 三崎亜記 著

公開日: : Book Review ,

 僕たちの世代というのは、戦争というものの実体験もないまま、自己の中に戦争に対する明確な主義主張を確立する必然性もないまま、教わるままに戦争=絶対悪として、思考停止に陥りがちだ。戦争というコトバを聞くだけで、僕たちの頭の中に、普遍化されたモノクロの映像が浮かんでくる。行軍する兵士、黒煙をあげて落ちる戦闘機、忌わしのキノコ雲、そして親を失い道端に座り込んだやせ細った子ども。それらの映像は、僕たちに思考する間も与えず、戦争を否定させる力を持っている。
その反面、いわゆる《世間》では、「正義のために、愛する人のために」という大義名分をうけて戦うことを正当化する、という図式がまかりとおっている。子ども向けのヒーロー番組しかり、勧善懲悪型の時代劇しかりである。
僕たちは「ソレトコレトハ、スベテガオナジデハナイケレド、カサナリアウモノナンダ」とわかってはいても、その違いと同質性について、深く考えなければならないほどの選択を迫られることはない。だから、日常の中でそれらは融合することなく、別物として並び置かれている。そして、時折それぞれの側面が鈍く光るのだ。

 

突然に始まったとなり町との戦争。日常生活の中に舞い込んできた非日常の出来事のはずが、日常生活のなかで戦争という非日常を感じ取ることができない状況に。

銃声が聞こえる訳でもなく、負傷者や死者を目の当たりにすることもなく、しかし戦争は確実に人の命を奪っていく。

主人公の北原は、自分が思い描いていた戦争に対するイメージと現実がことごとく符合しないことに戸惑いを隠せないでいる。戦時特別偵察業務従事者に任命されたものの、普段通りの会社勤めをしながらの従事であり、日常生活のなかに戦争という非日常の出来事が体験として何も起こらないのだ。

しかしそれも、次第に戦争という非日常の匂いを徐々に感じるようになるのだが、どこか無機質な戦争という事業を理解できないでいる。

となり町との戦争、実は町が行政の事業として長年にわたり予算を計上し取り組んできた地域振興事業のひとつ。しかし戦争のすべてを町だけで遂行できる訳もなく、一部は外部委託という形でコンサルタントに委託され、厳格な委託契約のもとで企画立案され、法的な手続きを経て遂行されていくというものだ...

 

となり町戦争推進室兼分室勤務の香西女史はいう。

今の時代はやはり地域住民の意向を無視しては戦争や工事はできなんですよ。五時に終わる工事が六時に延びただけで役場に苦情がくるくらいですから。それに戦闘の場所や時間に関しては、まず委託しているコンサルテリング会社がいくつかの案を作成し、それを元に戦争推進室で協議。その後文書として起案して、室長、助役、町長と決裁をとるのに最短で十日ほどかかります。法律上の文言に関わってくる場合はさらにその間に文書審査もありますから、もっと時間がかかります。ですから、例えば、相手の町が今ここの兵備が手薄であるとわかっても、じゃあすぐにそこを攻撃する、っていう対応は不可能ですね。

本書は、滑稽なほどに管理された戦争の姿を非日常としてではなく、日常の延長線上に描き出している。

戦闘シーンは一切ない。しかし、確実に死者の数は増えていく。もちろんノンフィクションであり、現実にこのような世界が訪れるとは思えない。

戦争というものの本質をとらえ、皮肉を交えながら鋭い表現で描いている本書。戦争を知らない平和ボケの日本の現状に対して、一矢報いた作品だ。

戦争は、日常と切り離された対極にあるのではなく、日常の延長線上にあるのだ。

 

※引用はすべて「となり町戦争」三崎亜記 著 (集英社文庫)より

 

 

 

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